近視(近眼)の有病率は全世界的にみて急増しております。2000年に全世界の近視人口は13億人、強度近視の人口は1.6億人と推定されますが、2050年には49億人、強度近視9.4億人と急増します。近視人口が増えるに伴い強度近視(強い近視)の人口も増えると考えられます。
近視が強くなると、眼軸(眼球の長さ、直径)が延長して網膜や脈絡膜にさまざまな病的変化を起こし、さまざまな眼の病気を発生させます。近視性黄斑変性症、網膜剥離、緑内障など失明につながる病気になるリスクが高まります。近視は学童に発生し、進行するため、いか学童時期にに近視発症を減らすかが大事になってきます。
また近視の進行は学童に始まり(成長期が止まる)高校~大学生くらいで止まるので、近視発症の時期が若ければ若いほど近視進行時期が長くなり強度近視になってしまいます。
近視に伴う眼合併症の危険度は以下のように分かっています。
強度近視に見られる眼合併症発症のオッズ比(病気の起こりやすさ、起こる倍率)
(参考:―1Dとは)
近視度数 -2D -6D -8D
近視性黄斑変性 2 41 127
網膜剥離 3 9 22
白内障 2 3 6
緑内障 2 3 -
このように近視が強くなれば強くなるほど、眼の病気のリスクが高まります。
なぜ近視になるのか
近視の状態は眼軸長(眼球の直径)が伸展することによって起こります。
眼軸は大体24mmくらいですが、それ以上に伸展するために
無限遠方から来る平行光線は網膜にはピントが合わずぼやけた像が写ります。
そのため凹レンズによって矯正する必要があります。
なぜ眼軸が正常より伸びて近視になってしまうのか。さまざまな原因が考えられています。
近視になる時期は学童期・成長期になります。
生まれてから成人になる過程で眼軸は成長と供に伸びてきます。
その成長の過程で正常の伸展より病的に伸展し近視になります。
その原因として、近業作業(スマートフォンやゲーム端末)を長時間すると、
網膜にピントを合わす際、ピントがあう調節ラグ(近くを見るときに調節が起こりますが、調節がしっかりしきれない)のため網膜の遠視性デフォーカス(しっかりとしたピント合わせができない、下図)が網膜の伸展の原因と考えられています。
さらに周辺網膜の遠視性デフォーカス(下図)も要因の1つです。
近視になる要因・近視を避ける要因
では学童期・成長期に何をしたら近視になりやすい・進行しやすく、何をしたら近視になりにくいのか、世界中の研究などでだんだん分かってきました。
先天的な要因 性別(男女比)によって有意差はないようです。また人種によって近視になりやすいといった具体的なエビデンスはありません。両親が近視の場合、近視になりやすい因果関係があります。
教育の有無は強い相関関係があります。教育水準が高ければ近視になりやすいです。また屋外活動が長いほど近視になりにくいようです。身長が高い・低いに近視のなりやすさには関係が少ないです。知能の高さに近視有病率に中等度相関関係があります。睡眠時間の多い少ないには関係が少ないです。喫煙・食事などにより有病率はかわりません。
環境因子として、都市部と農村部では都市部のほうが近視の有病率が高いようです。
大気汚染には、住居環境には相関関係弱く、夜間の照明(暗いところで本を読むなど)には近視の進行には関係ないようです。
以上のように屋外活動が多いほど、逆に近業作業(読書の距離、時間、姿勢)が短いほど
近視発症率は低くなります。
近視を予防するには、以上のように日常生活行動の改善と
近視進行抑制眼鏡やコンタクト、点眼などが考えられています。
近視抑制眼鏡
累進屈折力眼鏡
特殊非球面レンズ
DIMS(defocus incorporated multiple segment)レンズ
コンタクトレンズ
多焦点ソフトコンタクトレンズ
DISC(defocus incorporated soft contact lens)
オルソケラトロジー
これ進行予防眼鏡は先に述べた遠視性調節ラグや周辺部網膜遠視性デフォーカスを避けるために開発されました。
低濃度アトロピン硝酸塩点眼
古くからアトロピンを点眼すると強い近視抑制効果があることが知られていました。
しかし散瞳による眩しさ、調節麻痺による近見障害また全身副作用があるため、なかなか学童に使用することに問題がありました。しかし近年濃度を50~100倍に希釈した0.01%アトロピン硝酸塩点眼でも視力進行を抑制することが報告されました。
しかし実際、日本の保険適用ではなく、低濃度の点眼薬も実際ないため現状使用することは困難です。
しかし、進行予防の眼鏡やコンタクトレンズはわずかな効果しか認められず、点眼などは、副作用なので使いづらいため、先に述べた日常生活改善が大事になってきます。