ぶどう膜炎 各論

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Ⅰ 感染性ぶどう膜炎

  • ヘルペス性前部ぶどう膜炎

原因 ヘルペス感染(ウイルスは神経節細胞に潜伏していると考えられている)

主な炎症の部位 角膜・前房・前部硝子体

眼所見 豚様角膜後面沈着物、高眼圧、角膜浮腫、虹彩萎縮、硝子体混濁

治療 抗ウイルス薬(アシクロビル)

  • 眼内炎

原因 感染性(内因性の場合は血行性に眼内組織に感染する)

発症 細菌性では急激に、真菌性ではゆっくり

眼所見  1)細菌性 急激に眼痛、毛様充血、前房炎症、前房蓄膿、硝子体混濁、網膜下膿瘍、網膜炎、網膜出血、網膜浮腫

     2)真菌製 早期には硝子体混濁、網膜白色滲出病巣網膜出血

           晩期には前房炎症、前房蓄膿、滲出性網膜剥離

  • 急性網膜壊死

原因 感染性(HSV-1、HSV-2もしくはVZV)

部位 前房、硝子体、眼底、視神経

眼所見 早期には豚脂様角膜後面沈着物、前房と硝子体に炎症細胞、眼圧上昇、眼底周辺部に白色顆粒状病変が生じ、融合しながら円周方向に拡大する。網膜動脈を主体とする閉塞性血管炎、視神経乳頭の発赤・腫脹などが見られる。

  • サイトメガロウイルス網膜炎

原因 感染性(CMVによる感染症)

炎症の部位 眼底(網膜)、まれに視神経

  • HTLV-1関連ぶどう膜炎(HAU)

原因 感染性(母子感染、性行為による感染、血液を介する)

地域 日本では沖縄、九州南西部、四国南部、紀伊半島、東北や北海道の一部の

   HTLV-1高感染地域に多い

診断基準 明確なものはないが、血清抗HTLV-1抗体陽性の場合にHTLV-1関連ぶどう膜炎と診断する

眼所見 早期~病勢期 前房混濁は軽度から中等度で、微細~顆粒状角膜後面沈着物や瞳孔縁に虹彩結節を認めることがあるが隅角結節はみられない。軽度~中等度の硝子体混濁がみられ、典型的な場合は顆粒状混濁を呈する。眼底には網膜血管に白色顆粒の付着や白鞘をみることがある。網膜表面にも白色顆粒状病変の付着を見ることがあるが網膜や脈絡膜に滲出病巣は生じない

     晩期 通常、後遺症を残すことなく治癒する。

  • 眼トキソプラズマ症

       原因 感染性(経胎盤感染である先天感染と後天感染がある。トキソプラズマ原虫はネコが終宿主であるが、ほぼすべての哺乳類に感染し得る)

       炎症の主な部位 網膜硝子体

         眼所見 

先天感染 陳旧病巣:主病巣は黄斑部から後極にかけて存在する灰白色壊死性瘢痕で、出生時にはそでに活動期を過ぎていることが多い。大きさは2~3乳頭径大で黒褐色の色素沈着を伴い、健常部は脱色素輪で明確に境界されている。

     再発病巣:限局性滲出性網脈絡膜円が、瘢痕病巣と隣接あるいは少し離れた部位にみられる。病変は白色でごくわずかに隆起し、周囲の網膜は浮腫状に混濁しているために境界は不明瞭です。硝子体中には炎症細胞の浸潤がみられる。炎症が強い症例では前房混濁や角膜後面沈着物が観察される。通常2~3ヶ月で消炎し境界鮮明で扁平な色素性瘢痕病変となる。

後天感染 先天感染の再発病巣と同様な滲出性病変を生じる。通常片眼性で、後極部に1乳頭径大の滲出性病変を認めるが、陳旧病巣が患眼や僚眼に存在しない点が先天感染との場合とことなる。

    ・眼トキソカラ症

        原因 感染症(トキソカラはイヌなどを終宿主とする寄生虫でブタ、ニワトリ、ウシなどの肉や肝臓を生食して罹患することもある。

        炎症の主な部位 網膜、硝子体

        眼所見 周辺型:鋸状縁近くの網膜に白色の孤立性滲出塊が、硝子体腔に突出した隆起性病変として存在する。周辺の網膜はやや浮腫状で、網膜血管炎や高度な硝子体内への細胞浸潤を伴うことがある。しばしば視神経に向かう硝子体索状物を生じる。続発性緑内障や網膜剥離などの重篤な二次的病変をきたす症例では視力予後不良となる。

            後極型:病初期には網膜血管炎や硝子体炎を伴った境界不明瞭な白色の孤立性網膜混濁が出現する。病巣の大きさは1乳頭径大以下のものかあ黄斑全体に及ぶものまでさまざまであるが、やがて境界明瞭な腫瘤性病変となる。硝子体索状物の形成や網膜けん引をの残すこともあるが、病変が中心に及ばなければ視力予後は比較的良好である。

・結核性ぶどう膜炎

  原因 感染性

  炎症の主な部位 前房、硝子体、眼底、視神経

 眼所見 前眼部には角膜後面沈着物、虹彩炎、虹彩後癒着、虹彩結節がみられ、硝子体混濁も生じることがある。眼底には網膜血管炎、網膜出血のほか、脈絡膜結核腫がみられることがある。

・梅毒性ぶどう膜炎

 原因 感染性(スピロヘータ属の一つであるTreponema palidumの感染による全身性、胎盤感染により生じる先天梅毒を除き、性感染症の代表疾患の一つ。

眼所見 先天梅毒 早発性先天梅毒では約5%程度に網膜脈絡膜炎を生じる。遅発性先天梅毒では小児期に虹彩炎や涙嚢炎、青年期に角膜実質炎を生じる。

    後天梅毒 虹彩炎。通常両眼性で急性の炎症を生じる。肉芽腫性あるいは非肉芽腫性で重症度も様々。硝子体混濁や散在性網膜脈絡膜炎、網膜血管炎、視神経炎。特徴的な眼底所見としてacute syphilitic posterior placoid chorioretinitis(後極部に円盤状の滲出斑がみられる)

Ⅱ 非感染性ぶどう膜炎

  ・HLAーB27関連ぶどう膜炎

    原因 非感染性

    眼所見 強い毛様充血、微細な角膜後面沈着物、角膜浮腫。前房に多数の炎症細胞やフレア、前房蓄膿、虹彩後癒着。硝子体混濁はあっても

        軽微。一般に視力予後は良好。

   ・Fuchs虹彩異色性虹彩毛様体炎

    原因 非感染性

    眼症状 基本的に片眼性でその特徴的な眼所見として虹彩異色(虹彩委縮)、慢性の虹彩毛様体炎、後嚢下白内障で眼内炎は軽微なことが多い

        角膜後面沈着物は白色、小型でびまん性で色素沈着を伴わないことが多い。原因としてヘルペスやサイトメガロウイルス、トキソプラ

        ズマ症風疹との関連が考えられている。

ポスナー・ショロスマン症候群

 原因 非感染性

 眼所見 特異的な眼所見として、散在性、白色で色素を伴わない角膜後面沈着物、発作性の高眼圧、前房内細胞、開放隅角、患眼の隅角の色素脱出

糖尿病性虹彩炎

 原因 非感染性

 眼所見 繊維素性虹彩炎、球結膜浮腫・充血、毛様充血が強い。角膜後面沈着物もみられる。前房フレアが著明で、時に繊維素の析出や前房蓄膿がみられる。

水晶体起因性ぶどう膜炎

 原因 非感染性

 眼所見 前房中に水晶体融解物質としての閃輝性物質がみられ、眼圧上昇を伴う水晶体融解性緑内障では炎症所見は強くなく、炎症を主体とする疾患ではない。

間質性腎炎ぶどう膜炎症候群(TINU症候群)

 原因 非感染性

 眼所見 肉芽腫性の汎ぶどう膜炎を呈する。前眼部炎症が主体で、角膜後面沈着物は微細なことが多いが、豚脂様のこともある。虹彩にはKoeppe結節がみられることがあり、虹彩後癒着を伴うこともある。硝子体混濁はびまんn性のことが多いが、雪球状の混濁もみられる。視神経乳頭の発赤・腫脹、網膜血管の拡張・蛇行がみられることもある。

若年性特発性関節炎(JIA)に伴う虹彩毛様体炎および若年性慢性虹彩毛様体炎

 原因 非感染性

 眼所見 JIAのうち、慢性虹彩毛様体炎を合併するのは少関節型が多く、多関節型では合併は少なく、全身型(Still病)ではまれである。主に女児にみられる若年性慢性虹彩毛様体炎はJIAと同様の眼所見および経過を辿る慢性虹彩毛様体炎を紙面素。

 早期:小型~中型の角膜後面沈着物(非肉芽腫性)、前房炎症細胞と前房フレアが見られる。前房蓄膿はみられない。

時にびまん性硝子体混濁を呈する。通常、眼底には異常病変はみられないが、まれに網膜血管炎、視神経乳頭炎、黄斑浮腫を伴う。

 晩期:虹彩後癒着や帯状角膜変性のほか、毛様体炎膜がみられる。毛様充血や眼痛を伴わない自覚症状を訴えないため、晩期になって現れる帯状角膜変性による角膜混濁や白内障による視力低下が契機となって眼科を受診する場合もある。

ベーチェット病

 原因 非感染性 HLA-A26、HLA-B5101

 眼所見 早期、病勢期:発作的に眼炎症が生じる。前眼部の発作では微細な角膜後面沈着物と前房炎症細胞、前房蓄膿がみられる。前房蓄膿は二ボーを形成し。体位の変動で容易に崩壊する。前房内の繊維素析出は通常認められず、虹彩結節や隅角結節を作ることはない。後眼部の発作では硝子体混濁や、網膜滲出斑、網膜出血を生じ、これらは比較的速やかに消失する。前眼部の発作と後眼部の発作を同時に起こすこともある。以上のような眼炎症を発作を繰り返し生じることが、ベーチェット病の特徴である。

     晩期:網脈絡膜萎縮、網膜血管の白線化、視神経乳頭の蒼白化など、重篤な視機能低下につながる所見がみられる。

Vogt―小柳―原田病

 原因 非感染性、メラノサイトに対する自己免疫疾患

 眼所見 発症早期(初発例):毛様充血、浅前房、虹彩炎、滲出性網膜剥離(後極部、周辺部)、網膜下の散在性白斑、視神経乳頭の発赤、腫脹、脈絡膜剥離などがみられる

     寛解期:夕焼け状眼底、視神経乳頭周囲の萎縮、周辺部多発性網脈絡膜萎縮斑、黄斑部色素沈着、網膜色素上皮の集族・遊走などがみられる

     慢性期:寛解期の眼底所見に加え、豚脂様角膜後面沈着物、虹彩炎、虹彩後癒着、脈絡膜新生血管、網膜下索状物形成をみることもある。

交感性眼炎

 原因 非感染性(穿孔性眼外傷や内眼手術を契機に生じるメラノサイトに対する自己免疫疾患)HLA-DR4、HLA―DR53

 眼所見 発症早期(初発例):毛様充血、角膜後面沈着物、虹彩炎、虹彩結節などとともに、滲出性網膜剥離(後極部、周辺部)、網膜浮腫、視神経乳頭の発赤・腫脹、硝子体炎がみられる。また脈絡膜剥離、周辺に多発性脈絡膜炎(散在性白斑)などがみられる。

     寛解期:夕焼け状眼底、視神経乳頭周囲萎縮、多発性網脈絡膜萎縮、黄斑部色素沈着、網膜色素上皮の集族・遊走など

     慢性期:(遅延型):寛解期の眼底所見に加え、豚脂様角膜後面沈着物、虹彩後癒着、脈絡膜新生血管、網膜下索状物の形成がみられる。

サルコイドーシス

 原因 非感染性 HLA-DRB1

 眼所見 早期:豚脂様角膜後面沈着物、前房炎症細胞、虹彩結節(虹彩上のBusacca結節、虹彩縁のKoeppe結節)、隅角結節。硝子体混濁は塊状(雪球状混濁)、真珠の首飾り様混濁の場合とびまん性のときがある。

 晩期:テント状または台形状周辺角膜前癒着、光凝固様の網脈絡膜萎縮病巣など

眼内原発リンパ腫

 原因 非感染性(本態は腫瘍であるが、反応性の炎症を伴うことがある)

 眼所見 硝子体混濁型と網膜(下)浸潤型に大別される

     早期あるいは病勢期:硝子体混濁型は帯状ないしベール状、オーロラ様の濃淡のある混濁を呈する。網膜(下)浸潤型では黄白色で斑状の病巣が散在性に現れ、次第に拡大、融合し、わずかに厚みを増していく。次第に拡大、融合しわずかに厚みを増していく。まれに網膜血管炎や視神経乳頭炎ににた所見がみられる。

     再発時:上記の眼所見の増悪にくわえ、前房症状を呈することが多い。網膜(下)浸潤型では初発時にはあまりみられない出血や滲出性変化を伴うことがある。しばしば粗造な角膜後面沈着物がみられることがある。

     末期:硝子体混濁型では硝子体中に混濁が残存し、網膜下浸潤型では限局性、あるいはびまん性の網脈絡膜萎縮をきたす。

急性後部多発性斑状色素上皮症(APMPPE)

 原因 非感染性

 眼所見 急性期:前房や硝子体には炎症性細胞はまったくないかほとんどない。眼底の後極部を中心に、網膜色素上皮層レベルに複数のクリーム色から白色のプラーク状病巣がみられる。APMPPEの病巣は多発消失性白点症候群にみられる病巣より大きい

     寛解期:数週間で急性期にみられる病巣が消失し、軽度な色素沈着を伴うまだらな網脈絡膜萎縮に変化する。ほとんどの症例で視力は自然に回復する。しかし反対に視力低下を伴う著明な色素沈着もありえる。

多発消失性白点症候群(MEWDS)

 原因 非感染性

 眼症状 早期:黄斑部から赤道部にかけて、網膜深層あるいは網膜色素上皮層レベルに複数の淡い。境界やや不明な白斑がみられる。軽度な硝子体細胞あるいは視神経乳頭の軽度な発赤や浮腫もみられることがある。視力低下をきたし、視野検査ではマリオット盲点拡大あるいは中心暗点がみられることがおおい。視力低下の前に光視症や飛蚊症をじかくすることもある。

     寛解期:数週間の経過で自覚症状、視力、眼底所見および視野以上が徐々に改善し正常な眼底に戻ることが多い。しかし眼底に軽度な顆粒状色素沈着あるいは網膜血管の白鞘化がゆっくり生じることがある。

点状脈絡膜内層症(PIC)

 原因 非感染性

 眼所見 中等度近視に多い。自覚症状としては中心視力の低下あるいは光視症など。活動期には両眼性が多いが、左右差がみられることがある。前房や硝子体に炎症性細胞がまったくないか、ごくわずかである。眼底の後極部を中心に網膜色素上皮層あるいは脈絡膜内層レベルに複数の黄色斑がみられ、時に軽度な網膜下液を伴う。特に治療を行うことなく、寛解期には病巣は色素沈着を伴った境界鮮明な円形の萎縮巣へと変化していく。

地図状脈絡膜炎

 原因 不明(自己免疫的な機序によるほか、結核やウイルスなどの感染が関与している症例もあると考えられている)

 眼所見 視神経乳頭近くに大型の黄白色滲出性病変が生じ炎症の消退後は強い網脈絡膜萎縮を残す。再発時の病変は鎮静化した古い瘢痕病変の周囲におこり、黄白色の滲出病巣による縁取りがみられる。病巣はゆっくり虫食い状に拡大し、進行は数年に及ぶ。病巣が中心窩におよぶと急激に視力低下をきたす。病巣の主座は脈絡膜血管にあり、網膜色素上皮や網膜は二次的に障害されていると考えられている。

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